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             のぼせもんプロダクション・ノート    
         脱藩その壱 のぼせもんよ、その曇った瞳に焼き付けろ! 【ロケハン】   

ーロックとゲップと仮校舎ー


北海道、小樽市内の鰊御殿で「脱藩映画」に思いを馳せた村上ロックは数年後、中野区上高田のアパートの一階にいた。

そこはアパートとはいえ、部屋数が妙に多く、そこかしこに書籍やDVDが無造作に置かれていた。
映像部の秋山敏幸と文芸部の明美列車が大家に無理矢理家賃を下げさせ格安で契約した、
「フルメタル中学」の仮校舎である。




昔は明美と秋山が住んでいたが、住み始めてしばらくして後、
明美は部屋の壁一面に「どうしてもパイロットになりたいのです」と書きなぐって失踪。
三日後、栃木県の県道沿いで道行く老婆に無理矢理スチュワーデスの制服を着せようとしていた所を警察によって保護されたという経緯がある。

その後明美は短期の服役を終えて更正し、現在はフラワーアレンジメント教室の講師として生計を立てている。

※ちなみに現在の仮校舎には喜多あらたという
フルメタル中学にとって、 まんが道に出てくる「テラさん」
もしくは「劇画大介」的な人物が秋山と共に住んでいる。


「ロケハン、てなんですか」
村上ロックは、ペットボトルのコーラに手を着けようとしていた長濱に問いかけた。
長濱はふんと鼻を鳴らすとペットボトルを鷲掴み、一気飲みしはじめた。
喉が勢いよく上下する。

長濱はコーラを飲み終えると、唖然としている村上に向かって大きなゲップをひとつし、
「魔法や!」
と叫んだ。

そして長濱はカバンからおもむろに絵本「ごんぎつね」を取り出し、所々つかえながら声に出して読み始めた。

「ある秋…のこと、でした。二、三日雨が、ふり、続いたその間…
ごん、は、外へ…も出られ…なくて、あなの中…にしゃがん…で…いま、した」

この人は、頭がおかしいのかも知れない。
村上はそう思ったが流石に口には出せず、とりあえず頷いた。




ー夏とアイスと麦わら帽子ー



ロケハンとは、ロケーションハンティングの略である。

ロケーションハンティングとは、映画を撮影する前に撮影候補地に赴き、様々な検討を行うことである。 どのような画造りが出来るかの他に、気象条件(主に陽光の向きや日照時間)や 環境(人通り、車通り、工事等の騒音の有無)、交通アクセス、最寄りのコンビニ、最寄りのトイレの確認などなど、 検討する案件は多岐に渡る。

村上ロック、喜多あらた、明美列車らが
監督長濱の運転するレンタカーでJR久留里線、馬来田駅に到着したのは
強烈に日が差し始めた午後1時頃であった。
季節は7月。外には陽炎が立っている。

これはドアを開けた途端、大変なことになる。
全員がそう確信し、無言のまま「誰が一番先に外に出るか」それぞれの出方を伺っていた。

数刻して後。

「ド畜生!こうなったら夏の太陽を、ひとりじめだよ!」

喜多である。
喜多あらたである。
「フルメタル中学」という食えない奴ら
(性格もそうだが、飯も食えないという二重の意味で食えない奴ら)
のご意見番かつ、如来の如き優しさと鬼神の如き激しさを併せ持つ、
今時珍しいタイプの「信用できる男」。

こうなったら他の者も出ないわけにはいかない。

長濱が慌てて車のエンジンを止め、外に飛び出した。
続いて明美が死んだ魚の目でのっそり外に出た。

村上ロックは涙目で外の様子を伺っていた。
生粋の北海道人の村上ロックにとって暑さとは「恐怖」「不運」「死」の象徴である。

外に出た3人は、暑い暑いと言いながらも楽しそうにはしゃいでいる。

俺もあそこに行きたい。
行って「男(ザ・マン)」になりたい。
行くんだ、男の世界へ。

村上は涙を拭い、震える足を殴りつけた。 そして…


「南無三!」
と叫びながら軽ワゴンから飛び出した村上ロックが
「帰る!」
と駄々をこねるまで、時間にしてコンマ何秒の出来事であった。

『のぼせもん』撮影が冬に持ち越しとなったのは
準備に時間がかかったのと、
「夏だと暑いから」というヘタレな理由による所が大きい。

暑かった。そう、暑かったのである。
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