《 脱藩その弐 のぼせもんども、袖を擦りあえ! 前編 【スタッフミーティング】
猛暑の中、ロケハンを終えたフルメタル中学一行。
それぞれが部屋で溶けたり扇風機におちんちんで立ち向かったりと無為な日々を過ごしていた。
役者、村上ロックはひときわ大きなため息をついた。
流石にこのままでは『のぼせもん』の企画が頓挫してしまう。
監督長濱からの「映画制作の資金がビタ一文ありません」というメールも二時間おきに入ってくる。
メールが入る度に「了解です」という返信をしているが、
たまに絵文字を駆使した腹の立つバージョンもあり、村上のイライラは頂点に達しようとしていた。
そうだ、伊藤君を呼ぼう。
村上は企画実現に向け、伊藤栄之進に協力を仰ぐことにした。
村上と伊藤は舞台『maniacs』(sugarboy)で共演し、同じ幕末好きとして意気投合した間柄である。
伊藤は自身の率いる劇団「スペースノイド」で作・演出を務める若手の演出家であった。
幕末の知識が豊富なのと場数を踏んでいるということから、出演の他、脚本チームの一員としても迎えることとなった。
※ちなみに『maniacs』にはフルメタル中学もOP映像制作と上映オペレートで参加していた。
そして、中野区上高田の、フルメタル中学仮校舎の一室でスタッフミーティングが行われることとなった。
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村上にはひとつだけ懸念していることがあった。
箸が転んだだけで世界を呪い歯ぎしりするような面倒くさい連中が、 およそ半ダース集まるのだ。
村上は全身から冷や汗が吹き出るのを感じた。
30歳前後の、くすぶり続けている男達が一同に会するとどうなるかご存知だろうか。
議題そっちのけでお互いの頭髪の残り具合を探りあい、
どうすれば女子にモテるかという問いと、
それに対する 「虎になれ」「牛乳風呂に入れ」「心のGスポットを探り当てろ」
というふざけた回答が延々繰り返されるという、
性質の悪い宴会がはじまるのである。
そうはならないでほしい。
みんな、もっと大人になって!今だけでいいから!
村上は普段まったくあてにしていない神だか仏だかにも祈り、中野区上高田に向かった。
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……祈りが通じたかどうかはさておき、
村上の懸念をよそに、その日、会合は和やかに行われた。
予算から、スケジュール、出演者、完成後の展開までがざっくばらんにだが、
スムーズに決まっていった。
やればできるんでないの!
村上は涙がこみあげてくるのを必死に堪えた。
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とはいえ、こういう時の決まり文句である「ざっくり決めておこう」 というのはくせ者である。
なにせ本当にざっくりしか決まらないので、
下手をすると撮影中まで「ざっくり」という言葉が飛び交い、
皆ぼんやりした顔立ちでざっくりした作業を終え、そして後には何も残らない、
デスマーチ(死の行軍)になる可能性が高い。
それは避けねばという雰囲気がその会合にはあった。
常に泥をすすり続けて来た男達である。
そろそろ泥以外の物を口にしてやる。頑張るから美味い物を食わせろ。
という、少々怒気をはらんだ気概のようなものが村上にははっきりと分かった。
やれば出来るんでないの!もう、馬鹿!お馬鹿ちゃんたち!
この映画はきっとうまくいく。
村上は一人トイレで嗚咽した。
そして、スタッフ初顔合わせの終わり間近に監督長濱が参考映画として挙げたのは、
1973年に撮られた一本の時代劇だった。
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